科目B|B3 データ活用の組織文化の醸成
データ活用の成功例と失敗例
IPA が公表した試験の範囲の案(2026年8月31日)の「データ活用の意義の理解及び普及活動への参画」に当たります。
保険業のA社では、データ活用を進めているが、部門によって取り組みに差がある。X部長は、Yさんに、各部門に向けて、データ活用の意義を、社内の取組事例をもとに説明する資料を作るよう頼んだ。
Yさんは、社内の4つの取組を集め、目的、結果、うまくいかなかった点を、表1 にまとめた。表1 の『比べた相手』は、結果を何と比べたかを表す。
説明では、DX やデータに基づく意思決定との関係にもふれることにした。A社の説明の整理を表2 に示す。
Yさんの説明資料の下書きは次のとおりである。表1 から言えるのは、【a】ということである。解約の予測の効果を説明するには、さらに【b】を調べる必要がある。請求書類の読み取りは、表2 の整理では【c】にあたる。
表1 社内の取組事例
| 取組 | 目的 | 結果 | 比べた相手 | うまくいかなかった点 |
|---|---|---|---|---|
| 請求書類の読み取り | 入力の手間を減らす | 入力時間は1件10分から7分。少額の請求は支払いまで自動にし、2日早まった。審査担当者は高額の請求の担当に組み替えた | 導入の前の同じ担当者 | 手書きの書類は読み取りの誤りが多く、人の確認が残った |
| 解約の予測 | 解約を減らす | 連絡した契約者の解約率は、6%だった | 比べていない | 連絡したのは、予測で解約しやすいとされた契約者だけだった |
| 訪問先の絞り込み | 営業の成果を上げる | 使った支店の契約件数は、使わなかった支店より2割多かった | 使わなかった支店 | 使ったのは、使いたいと申し出た支店だけだった |
| 問い合わせの集計 | 待ち時間を短くする | 平均の待ち時間が、4分から3分になった | 導入の前の同じ窓口 | データの形式が部門ごとに違い、整形に手間がかかった |
結果の数は、取組を始めてから半年の値である。請求書類の読み取りの「自動」は、手続きから支払いまでを人の作業なしで行うことである。連絡の対象は、予測で解約しやすいとされた契約者に限っていた。そのうち連絡しなかったのは、担当者が足りず連絡できなかった人と、連絡の希望がないと事前に届けていた人である。申し出た支店は、前の年の契約件数が多い支店だった。少額の請求を自動にする基準は、審査担当者の経験で決め、結果をデータで確かめていない。
表2 A社の説明の整理
| 呼び方 | 意味 |
|---|---|
| 業務のデジタル化 | 紙や手作業の業務を、デジタル技術で置き換える。仕事の進め方や仕組みは、これまでと同じである。 |
| DX | データとデジタル技術で、仕事の進め方や仕組みまで変え、新しい価値を出す。 |
| データに基づく意思決定 | 経験だけでなく、データを根拠にして判断し、その結果をデータで確かめる。 |
設問
本文中の【a】〜【c】に入れる字句の組合せとして、最も適切なものを解答群の中から選べ。
- 表1 から言えるのは、【a】ということである。
- 解約の予測の効果を説明するには、さらに【b】を調べる必要がある。
- 請求書類の読み取りは、表2 の整理では【c】にあたる。
| 記号 | 【a】 | 【b】 | 【c】 |
|---|---|---|---|
| ア | 問い合わせの集計の導入後、平均の待ち時間は短くなった | 予測で解約しやすく、担当者の不足で連絡しなかった契約者の解約率 | 業務のデジタル化 |
| イ | 訪問先の絞り込みの導入後、使った支店の契約件数は増えた | 予測で解約しやすく、担当者の不足で連絡しなかった契約者の解約率 | DX |
| ウ | 問い合わせの集計の導入後、平均の待ち時間は短くなった | 予測で解約しやすく、連絡の希望がなく連絡しなかった契約者の解約率 | DX |
| エ | 問い合わせの集計の導入後、平均の待ち時間は短くなった | 予測で解約しやすく、担当者の不足で連絡しなかった契約者の解約率 | DX |
| オ | 訪問先の絞り込みの導入後、使った支店の契約件数は増えた | 予測で解約しにくく、もともと連絡の対象外だった契約者の解約率 | データに基づく意思決定 |
| カ | 訪問先の絞り込みの導入後、使った支店の契約件数は増えた | 予測で解約しやすく、連絡の希望がなく連絡しなかった契約者の解約率 | 業務のデジタル化 |
| キ | 問い合わせの集計で、部門ごとのデータの形式がそろった | 予測で解約しにくく、もともと連絡の対象外だった契約者の解約率 | 業務のデジタル化 |
| ク | 問い合わせの集計で、部門ごとのデータの形式がそろった | 予測で解約しやすく、連絡の希望がなく連絡しなかった契約者の解約率 | データに基づく意思決定 |
| ケ | 問い合わせの集計で、部門ごとのデータの形式がそろった | 予測で解約しにくく、もともと連絡の対象外だった契約者の解約率 | データに基づく意思決定 |
正解:エ a:問い合わせの集計の導入後、平均の待ち時間は短くなった b:予測で解約しやすく、担当者の不足で連絡しなかった契約者の解約率 c:DX
ポイント
この問題で試すのは、取組事例の一覧から、言える知見と言えない知見を分け、DX や意思決定との関係を、整理に合わせて説明する力です。
考え方と解き方
表1 は、『結果』の列だけでなく、『比べた相手』と『うまくいかなかった点』の列、注を合わせて読み、何が言えるかを決めます。表2 は、取組を、仕事の進め方まで変えたかどうかで区別します。取りちがえやすいのは、結果の数が良いだけで、効果があったと決めてしまうことです。
- 表1 の『結果』と『比べた相手』の列を見ると、問い合わせの集計は、導入の前の同じ窓口と比べて、平均の待ち時間が4分から3分になっています。『うまくいかなかった点』の列より、データの形式は部門ごとに違うままで、形式がそろったとは言えません。訪問先の絞り込みは、『比べた相手』の列が使わなかった支店で、導入の前の値が表にありません。『2割多かった』は同じ時期の支店どうしの差で、使った支店の件数が導入の前より増えたかは分かりません。したがって a は、問い合わせの集計の導入後、平均の待ち時間は短くなった、です。
- 表1 の解約の予測の行は、『比べた相手』の列が比べていないで、『うまくいかなかった点』の列より、連絡したのは解約しやすいとされた契約者だけです。効果を言うには、解約しやすさが同じで、連絡の有無だけがちがう契約者と比べます。表1 の注より、連絡の対象は解約しやすいとされた契約者に限っていて、そのうち連絡しなかった人には、担当者が足りず連絡できなかった人と、連絡の希望がない人がいます。連絡の希望がない人は、自分で連絡を断った人で、連絡した人とは成り行きがちがい、比べる相手になりません。担当者が足りず連絡できなかった人は、契約者の事情で分かれたのではないので、比べる相手になります。解約しにくいとされた人は、もともと連絡の対象外で、解約しやすさもちがいます。したがって b は、予測で解約しやすく、担当者の不足で連絡しなかった契約者の解約率です。
- 表1 の請求書類の読み取りの行の『結果』の列より、入力時間が短くなっただけでなく、少額の請求は手続きから支払いまでを自動にして支払いが2日早まり、審査担当者は高額の請求の担当に組み替えられています。表2 の『意味』の列で、仕事の進め方や仕組みまで変え、新しい価値を出すのは DX で、手作業を置き換えるだけで進め方が同じなのが業務のデジタル化です。表1 の注より、少額の請求を自動にする基準は審査担当者の経験で決め、結果をデータで確かめていないので、データを根拠にして判断し結果をデータで確かめる、データに基づく意思決定にはあたりません。したがって c は DX で、a、b、c の組合せは エ です。
ほかの選択肢
- a が訪問先の絞り込み・形式がそろったの組合せ(イ、オ、カ、キ、ク、ケ):訪問先の絞り込みは、導入の前の値が表になく、『2割多かった』は同じ時期の使わなかった支店との差なので、前より増えたかは分かりません(表1 の注のとおり、使った支店は前の年から件数が多い支店でもあります)。形式がそろったは、表1 の『うまくいかなかった点』の列に、形式が部門ごとに違うと書かれています。
- b が連絡の希望がなく連絡しなかった・もともと連絡の対象外だったの組合せ(ウ、オ、カ、キ、ク、ケ):連絡の希望がなく連絡しなかった人は、自分で連絡を断った人で、連絡した人と同じ条件の相手とは言えません。予測で解約しにくい人は、もともと連絡の対象外で、解約しやすさもちがい、連絡した契約者と比べる相手になりません。
- c が業務のデジタル化・データに基づく意思決定の組合せ(ア、オ、カ、キ、ク、ケ):業務のデジタル化は、仕事の進め方を変えない場合で、請求書類の読み取りは、支払いまでの自動化と担当の組み替えをしているので当たりません。データに基づく意思決定は、データを根拠に判断し結果を確かめる場合で、表1 の注より、自動にする基準は経験で決め、結果もデータで確かめていないので当たりません。
覚えておくこと
- 取組の結果から言えることは、何と比べた結果かで決まる。この事例では、導入の前の同じ窓口と比べた待ち時間の変化は言えるが、使いたいと申し出た支店だけの結果は、取組の効果とは言えない。
- 効果を説明するには、条件の近い相手と、自分で分かれたのではない相手と比べる。この事例の解約の予測では、解約しやすいとされた契約者のうち、担当者の不足で連絡しなかった人が比べる相手になり、連絡を希望しなかった人は自分で分かれたので、相手にならない。連絡の対象外の人は、解約しやすさがちがう。
- DX と業務のデジタル化の説明は、整理の表に合わせる。この事例の表2 では、仕事の進め方や仕組みまで変え、支払いが早まるという新しい価値を出した読み取りの取組は DX として説明し、置き換えだけなら業務のデジタル化として説明する。
(科目B・3-1)